咳とは
咳は、気道の分泌物や異物を体外に排出するための重要な防御反応のひとつです。
咳の治療
漢方医学では、体内の水のバランスを整えて気道を潤す効果がある漢方薬を用いることで、咳を緩和することができます。
病院での診察
咳の原因を特定するために、咳のタイプと共に、肺のX線やCT検査、血液検査、喀痰検査、肺機能検査などの検査を必要に応じて行います。
咳は体の重要な防御反応の一つであり、気道の分泌液や異物による刺激によって起こります。
咳反射が働くと、吸い込んだ空気が強く外に押し出され、咳が発生します。
咳の一回の動作では、健康な人では約2200mL前後の空気が排出されますが、肺の病気を抱えた人では約660mL前後とされています。
咳をするときの空気の速度は160〜220m/秒であり、音速の331.5m/秒(摂氏0度時)に近い速さです。
咳の特徴は、一度始まるとなかなか止まらないことで、それによって睡眠障害や胸部の痛み、体力の低下などの健康問題が生じることもあります。
ただし、咳は体内の異物を除去するための反応であるため、無理に止めることは望ましくありません。
重要なのは、まず咳の原因を早期に特定し、適切な対策を迅速に行うことです。
咳のメカニズム
咳の原因は、感染症やアレルギーなどの疾患、タバコやほこりなどの刺激物によるものが一般的です。
感染症では風邪が最も一般的であり、急性気管支炎やウイルス性・細菌性の肺炎などでも咳が生じます。
また、結核も咳を伴う病気ですが、昔の病気と思われがちですが、現代でも年間約2万5000人の感染者がいます。アレルギーによる咳は、気管支喘息や咳喘息、花粉症などがあります。
慢性的な咳の原因がタバコに関連している場合、慢性気管支炎が見られることが少なくありません。
最近では、この慢性気管支炎と肺気腫(肺組織の破壊や炎症を特徴とする疾患)をまとめて「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」と呼んでいます。
また、咳というと肺がんを連想する人も多いかもしれませんが、肺がんや喉頭がんでも咳が生じることがあります。
他にも、胃食道逆流症(胃酸の逆流)、後鼻漏(鼻汁がのどに流れる症状で、慢性副鼻腔炎と関連しています)、大動脈瘤など、肺や気管支以外の疾患でも咳が生じることがあります。
また、薬の副作用としても咳が現れる場合があるため、注意が必要です。
咳のおもな原因
感染症 | 風邪、急性気管支炎、ウイルス性肺炎(パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスなど)、細菌性肺炎(肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌など)、マイコプラズマ肺炎、結核など |
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タバコ・ホコリ | COPD(慢性気管支炎、肺気腫)など |
アレルギー | 気管支喘息、咳喘息、花粉症など |
そのほか | 肺がん、咽頭がん、心不全、胃食道逆流症、薬の服用など |
咳の薬物治療
咳の原因は多岐にわたりますので、患者さんが「どのような咳をしているのか」という情報は非常に重要です。
咳の状態だけでなく、継続期間や特定の時間帯に咳が出るかなども、欠かせない情報と言えます。
- どんなタイプの咳か(痰を伴うか、乾いた咳か、湿った咳か)
- いつから続いているのか(1週間ぐらい前、3カ月ほど前など)
- どんなときに咳が出るのか(就寝中、食事中、冷たい空気に触れたときなど)
- 胸の痛みや息切れ、喘鳴(ゼーゼーする状態)など、ほかの症状はあるか
- 痰を伴う咳をしている場合、痰の色は何色か
これらの咳に関する情報を元に、病院では肺のX線検査、CT検査、血液検査、喀痰検査、肺機能検査などの検査を必要に応じて行い、咳の原因を究明していきます。
原因が特定された場合、感染症ならば抗菌薬の処方、喘息ならばステロイド薬の吸入など、適切な治療を進めていきます。
鎮咳薬は咳を抑える効果がありますが、咳は異物を除去する重要な機能を持つため、大量の痰を伴う咳に対しては、鎮咳薬を使用して咳を抑えることは望ましくありません。
また、鎮咳薬には依存性や副作用のリスクがあるため、使用する際には医師に相談し、適切な使用方法や注意事項について確認することが重要です。
日常生活では、湿度の高い環境では咳が抑えられやすいため、室内の湿度を適切に保つために加湿器を利用することが重要です。
また、蒸気を吸入することも咳を緩和する助けになりますが、高温の蒸気には注意が必要です(やけどの危険性があるため)。水分摂取も積極的に行うことをおすすめします。
当然ですが、咳の原因となるタバコは避けるべきです。咳が出やすい時期には、ホコリが舞いやすい場所への出入りも避ける方が良いでしょう。
また、風邪など感染症による咳の場合は、周囲の人に感染を広げないために「咳エチケット」を守りましょう。
外出時にはマスクを着用するだけでなく、咳をする際はティッシュやハンカチで口を覆い、人がいない方向を向くようにしましょう。
使用したティッシュはすぐにゴミ箱に捨て、可能な限り手を丁寧に洗うことも大切です。
漢方薬の治療
咳という症状に対して、漢方薬も効果を発揮することがあります。
特に、風邪の後に続く長引く咳や、気管支喘息やCOPDなどによる治まらない咳に対して、漢方薬が有効であることが知られています(ただし、気管支喘息の発作的な咳や喘鳴には、西洋薬のステロイド吸入薬などが必要です)。
漢方医学では、「気・血・水」という3つの要素のバランスが崩れることで、カラダに不調が現れると考えられています。
例えば、風邪の後に続く長引く咳は、カラダの水分バランスが崩れている状態である「水毒」とされます。
そこで、漢方薬は内側から水のバランスを整え、気道を潤すことで、咳を緩和する効果があります。
漢方薬による内側からの潤いは、加湿器による外部からの潤い効果と相まって、咳の症状を緩和するのに役立つと言えます。
さらに、気管支喘息やCOPDなどの慢性疾患に伴う長引く咳には、漢方薬が使用されることもあります。
また、咳によって体力が低下している場合には、補中益気湯などの漢方薬を使用して体力の回復を図ることもあります。
慢性気管支炎(COPDなど)、気管支喘息で長引く咳を改善するとされる漢方薬
慢性気管支炎(COPDなど)
漢方薬 | 効果効能 |
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清肺湯(せいはいとう) | 体力中等度で、せきが続き、たんが多くて切れにくい方のぜき、気管支炎など |
滋陰至宝湯(じいんしほうとう) | 体力虚弱な方の慢性のせき、たん、気管支炎 |
滋陰降火湯(じいんこうかとう) | 体力虚弱で、のどに潤いがなく、たんが切れにくくてせきこむ方の気管支炎、せき |
気管支喘息
漢方薬 | 効果効能 |
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麦門冬湯(ばくもんどうとう) | 体力中等度以下で、たんが切れにくく、ときに強くせきこみ又は咽頭の乾燥感がある方のからぜき、気管支喘息など |
小青竜湯(しょうせいりゅうとう) | 体力中等度又はやや虚弱で、うすい水様のたんを伴う方の気管支炎、気管支喘息など |
柴朴湯(さいぼくとう) | 体力中等度で、気分がふさいで、咽喉、食道部に異物感がある方の気管支喘息、せきなど |
神秘湯(しんぴとう) | 体力中等度以上で、せきが強くでる方のせき、気管支喘息など |
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう) | 体力中等度以上で、せきがでて、ときにのどが渇く方のせき、気管支喘息など |
苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにとう) | 体力中等度又はやや虚弱で、胃腸が弱り、冷え症でうすい水様のたんが多い方の気管支炎、気管支喘息など |
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